サステナビリティSustainable

ステークホルダーの皆様へのメッセージ

笑顔あふれる社会のために 代表取締役社長 日景 一郎

 2023年度は、食料品小売や自動車小売業界などで景気回復がうかがえた一方で、当社グループが属する化学業界は、地政学リスクの長期化による資源高、各国との金利差などを起因とする円安などの影響により、調達コストの高止まりが継続しました。

 当社グループでは、徹底したコスト削減を行いながら、お客様との対話を通じて価格改定を進めましたが、価格上昇から需要が後退し、これを埋める新商品や新サービスの立ち上がりが遅れたことから、操業の低下を埋める十分な利益が確保できず、2023年度の連結ベースでの業績は、営業損失△958百万円(前年 営業損失△713百万円)、経常損失△171百万円(前年 経常損失△117百万円)となりました。また、車輌・ウレタン・断熱資材事業に関わる減損損失△4,973百万円ならびに、繰延税金資産の取り崩しを含めた法人税など調整額として3,093 百万円を計上した結果、当期純損失△8,210百万円(前年当期純損失△1,204百万円)となりました。

 当社グループの最重要課題は、既存事業のコスト高を克服し、収益改善を図ることにほかなりませんが、業績を成長軌道に修正する上でも、新たな価値の創造が必要です。上昇するコストについては、引き続き価格改定を進めますが、これは需要の後退につながる懸念があるため、操業を確保する新たな事業の創造が不可欠となります。

 価値の創造では、既存事業の深掘りに加えて、新たな領域の探索を図っていきます。当社グループが持続的に成長を遂げるには、新たな領域を探索し続け、社会課題の解決につながるイノベーションを持続的に生み出せる企業へと変貌する必要があります。そのためには、全ての役員・従業員がこれまでの常識に囚われることなく、自由な発想で異業種とも交流しながら製品やサービスを探究し、その成果物を評価・尊重し合える環境の整備が必要です。このような観点からも、当社グループでは、人的資本経営の重要性を認識しており、昨年度より課題の洗い出しを進めています。今後は、中長期的な視点で当社グループの成長に資する人的資本経営を拡充していく予定です。

 ステークホルダーの皆様には、引き続き当社に対してご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 当社グループは、企業理念のもと、「人と環境に優しく快適な生活空間を創造する企業」を標榜し、事業戦略上、以下を重要な領域と考えています。

  1. 防災
  2. モビリティ
  3. 省エネルギー
  4. エレクトロニクス
  5. ライフサイエンス(健康を含む広義の概念)

 これらはいずれも、「人」を中心とする事業領域であると捉えなおすこともできます。「人」の五感に響く製品やサービスを当社グループの技術で育み、「新しい価値」を生み出すというアプローチを推進しています。
 具体的な事業戦略として重要と位置づけているものは、以下の4点です。

  1. 成長事業の育成・強化

    1. [1]脱炭素社会に向けた事業の強化

      1. 1)ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)実現のための断熱資材事業の強化
      2. 2)バイオマス・生分解性素材事業の拡大
      3. 3)既存プラスチック製品のリサイクル化の推進
      4. 4)EV向け車輌資材事業の強化
    2. [2]海外事業の拡大推進

      1. 1)米国 ACHILLES USA, INC.における医療用フィルムの製造販売
      2. 2)中国 阿基里斯(佛山)新型材料有限公司における車両用素材などの製造販売
      3. 3)既存・新設の海外製造・販売拠点を生かした新規分野の開拓
      4. 4)グローバルマーケットへの国内外生産拠点からの製品供給体制の最適化
    3. [3]人口動態に連動した課題解決のための事業育成

      1. 1)超高齢化社会に対応した事業の推進
      2. 2)食品ロス対策、農産品の国内自給率向上のための事業強化
  2. 新規事業(用途)の確立・創出

    1. [1]防災事業の拡大

      当社グループの総合力を生かした新製品の開発による災害対策・防災・感染症対策製品事業の強化

    2. [2]中間財の高品質化による新規用途の創出

      機能性フィルム、機能性発泡材料の開発推進

    3. [3]グループ間における経営資源の有効活用

      「多岐にわたる製品群×多様なマーケットのお客様」の有効活用による新規事業の創出

  3. 既存事業の再構築

    1. シューズ事業の収益性改善

      1. 1)「瞬足」「アキレス・ソルボ」「BROOKS(ブルックス)」などの主力製品への集中
      2. 2)「瞬足」「アキレス・ソルボ」のアジア圏への拡販推進
      3. 3)国内生産終了に伴う効率的な事業運営組織への変革
  4. 経営基盤の強化

    1. [1]温室効果ガス排出量削減に関わる取り組み強化

      1. 1)顧客起点に立ち、省資源、省エネルギー、温室効果ガス排出量削減も考慮した迅速な新商品開発
      2. 2)再生可能エネルギーの積極的使用など、温室効果ガス排出量を極小化した生産活動の推進
      3. 3)物流改革による温室効果ガス排出量削減および収益性改善
    2. [2]生産性の向上

      1. 1)スマートプロセス・デジタル技術による、全ての業務を対象とした生産性向上
      2. 2)グローバルな事業展開およびDXなどを牽引する人材の育成、多様性も尊重した働き方改革の推進

 国内外における生産や消費の変動に対応し、持続的な成長を成せるように、当社グループの経営資本を最大限に生かし、積極的かつ効率的な事業運営を今後も進めていきます。

 2022年12月に開所した阿基里斯(佛山)新型材料有限公司は、2023年連結会計年度に損失を計上しておりますが、これは事業立ち上げに伴うものであり、2024年4月より量産を開始し、今後、当社グループからの生産移管や主要お取引先様への販売拡大を見込んでいます。一方で、2023年度に滋賀第二工場に新設したウレタン製造設備については、直近のウレタン製品の需要が減少したことから、減損損失を計上しましたが、液化炭酸ガスを用いた環境に配慮した生産設備であることに加えて、品質や生産性の大幅の向上が図れることから、今後は競争力アップに貢献すると期待しています。また、ACHILLESUSA, INC(. 米国ワシントン州)において、フィルム製品の生産能力増強を目的に2025年9月の完成を目指し、設備投資を進めています。投資案件に関しては、確実に投資回収を図るべく、全社一丸となって取り組んでまいります。

 当社は、2023年4月にTCFD提言への賛同を表明し、気候変動が当社事業に与える影響について情報開示を行いました。今年は、分析に用いる移行リスクシナリオを2℃未満シナリオから1.5℃シナリオに変更し、温室効果ガスのスコープ1+2の排出削減目標を、2030年末までに2018年度比30%削減としていたところを、50%削減に見直しました。削減目標達成に向けて、省エネの徹底、コージェネレーションシステムの活用、再生可能エネルギーの調達、太陽光発電の自家消費、クレジット購入などに加え、eメタンの導入などを総合的に勘案し、当社にとっての最適化を図っていきます。
 また、当社のスコープ3排出量を算定し情報開示しました。今後、スコープ3の算定範囲を連結ベースに拡大していきます。

 当社グループが創造を目指す「新しい価値」は、「高い社会性」「社会課題の解決」に資することを基本としています。すなわち、お客様の「真の満足に裏付けられた対価の獲得」とも言い換えることができます。お客様から真の満足を得るには、お客様の期待を大きく超える必要があり、提供するものは、お客様がお気づきになっていない、お客様の先にある何かであるかもしれません。そのため、お客様の先を探究し、満足の本質に仮説を立て、製品やサービスをデザインしていく必要があります。一見大変そうな作業ですが、チャレンジングであり、わくわくする仕事であると思います。
 一人でも多くの当社グループの従業員が、このわくわくする仕事を通じて笑顔になり、お客様を笑顔にすることで、笑顔あふれる社会の実現に貢献していきたいと考えています。

  • ※Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略。金融安定理事会(FSB)が設立した、各企業の気候変動への取り組みを具体的に開示することを推奨する国際的な組織。

2024年9月