研究開発Research & Development
「瞬足」や「アキレス・ソルボ」といったさまざまなシューズブランドを展開するアキレスが、3年をかけて製品化にたどり着いた「MEDIFOAM(メディフォーム)」。 ミッドソールに自社開発の新ポリウレタン素材を使用し、高次元の衝撃吸収性、反発弾性、耐久性を実現したランニングシューズです。“走るリカバリーシューズ”という新発想のコンセプトを掲げ、ランナーの走る楽しさを支えています。
「豊かで快適な社会づくりに貢献できる会社であり続けること」を目標に掲げるアキレスは、新たな価値を生み出し続けるうえで「健康」を一つのキーワードとしています。
履く人の感性に適合するシューズづくりも例外ではありません。文字どおり私たちの体を支え、「第二の心臓」と言われることもある足をいかに健康的にサポートするか、アキレスの研究員と社員たちは技術革新を実現しようと、日々奮闘を続けています。
2017年3月に販売をスタートしたMEDIFOAM(メディフォーム)は、走る楽しさを支えながら、履く人の健康に最大限の配慮を注いだ製品です。長距離を走る負担によって起こり得る骨や関節、筋肉の故障といったランニング障害を軽減してくれる「ランナーたちの頼れるパートナー」と言っていいでしょう。同名のメディフォームというミッドソール素材の開発に要した期間は約3年。何度も評価、修正や改良を重ね、高次元の衝撃吸収性、反発弾性、耐久性という三拍子をそろえた新ポリウレタン素材ができ上がりました。
「Medical(医療の)」と「Foam(発泡体)」を組み合わせた「MEDIFOAM」という名前が示すとおり、足への負担を十二分に軽減するランニングシューズは体に優しいうえ、最先端の発泡技術を追求し続けてきた素材メーカーとしての蓄積が凝縮されています。
ランニングを楽しむ人が増えている――社会的ニーズに応えようとプロジェクトが立ち上がったのが2014年1月。よくよく調べてみると、日本には1千万人規模のランニング人口が存在する一方、ビギナーの半数以上が1年以内に走ることをやめている事実がわかりました。
その原因の多くを「ひざや腰の痛み」が占めており、プロジェクトメンバーは、健康な体づくりを目的としたランニングやジョギングが、実は体にダメージを与えているという点を改善する必要があると考えました。
ランニング障害の一掃を目指して「走るリカバリーシューズ」という新発想のコンセプトを掲げ、ミッドソール素材の選定に着手しました。実験室での小規模な検討を繰り返し、ゴムやシリコンよりも衝撃吸収性や強度が高く、断熱材やクッション材で活用してきた実績があるポリウレタンのほうが自分たちの思い描く理想のランニングシューズのミッドソール素材に適しているという結論に至りました。
素材を絞り込んだ後は、とことん性能の向上にこだわりました。「走る」と「リカバリー」という両面を手助けするためには、これまでにない衝撃吸収性と反発弾性を実現しなければなりません。さらに、走る楽しさを長く感じてもらうには、優れた耐久性も必須です。
こうして、さまざまな「究極」を焦点に定めたシューズづくりが本格的にスタートしました。
※ 出典(公財)日本生産性本部「レジャー白書2013」
衝撃吸収性と反発弾性はいわば相反する性能。その両立は決して容易ではありません。実験室に腰を据え、最小ロットの試作品を数足だけつくり、分析を行う日々を1年間続けました。誰もが胸を張って世に送り出せるだけの性能を実現するため、材料の選定や配合比率の調整を何度も重ねたのです。
新たなポリウレタンの素材は「走るリカバリーシューズ」のソール中間部にあたるミッドソールに使用することが決まっていました。シューズ全体の各部位との相性も考慮する必要があります。そのうえで衝撃吸収性と反発弾性といった対極のパフォーマンスを調和させるためには、ポリウレタンの発泡体の中に含まれるセルという気泡のサイズも重要です。最適解を見いだすにはやはりアキレスが積み重ねてきた発泡と成型の技術が大きく生きました。
もっとも、実験室で見えた「現状のベスト」にアキレスの開発者たちは決して満足しませんでした。測定装置で出たデータはあくまでデータ。履く人の本当の健康は、実際に履いて走ってみなければわからない。そうした信念を共有し、試し履きに協力してくれる社員を見つけ、順天堂大学やNPOニッポンランナーズという千葉県佐倉市の総合型地域スポーツクラブとも連携し、試作品の試乗を通して実際の声を集め、改良を重ねました。
順天堂大学でのテストでは思いがけない気づきを得ています。ラグビーをプレーする際に試作品を履いた学生がいて、シューズは壊れてしまいました。ランニングシューズとして売り出しても、他の使われ方がある。用途のイメージを広げ、強度を含む性能をより向上させるために、さらなる改良にも取り組みました。
ランニングシューズを含める靴は通常、十分に走ったり歩いたりしてから買うものではありません。つまり、履いた瞬間に「これだ!」と感じてもらえる特長が不可欠です。アキレスが新ポリウレタン素材の開発を手がけた際に意識したのもその独自性でした。
2015年3月、新ポリウレタン素材をミッドソールに用いたシューズの量産化に移ります。原液の金型への流し方や生産スピード、温度や湿度といった要素を詳細にチェック。量産設備で靴をつくり、大学生や一般ランナーに履いてもらってフィードバックを受け、あらためて配合処方や成型加工条件を微調整するという工程を1年にわたって繰り返し、ようやく理想としていた性能のシューズを市場へ投入するための準備が整いました。
プロジェクトの立ち上げから約3年が経った2017年3月、高水準の衝撃吸収性、反発弾性、耐久性の3つを兼ね備えたメディフォームというランニングシューズが発売されました。発売日からほどなく、開発に携わったメンバーの一人は百貨店でメディフォームを購入するお客様の姿を見て感動したといいます。履いた瞬間に「これだ!」と感じてもらえる製品ができ上がったと実感したからに他なりません。
メディフォームは、高さ10メートルから厚さ約30ミリメートルのシートに生卵を落としても、生卵は割れずに5メートル以上跳ね上がるほどの反発性を持ちます。アスリートも「軽い力で足が踏み出せる」と太鼓判を押す性能は、ランニングシューズ以外にも活躍の場を広げていくでしょう。日用品から建築土木分野に至るまで、さまざまな製品開発を手がけるアキレスの強みを生かし、高齢者向けの快適な靴や楽に立ち作業ができるマットなど、幅広い分野で「健康」を支える素材として有効活用されていくはずです。
研究開発本部
応用研究開発グループ 機能性素材チーム 課長
森 宏生
他の部署と連携し、研究開発本部の素材開発力を初めてシューズ製品へ展開できたこのプロジェクトを通じて、アキレスの新たな可能性を実感しました。「製膜」「発泡」「成型」という3つのコア技術を持ち、多分野での商品の開発を続けるアキレスにしかできない独自素材や商品の開発を今後も続けていきたいです。メディフォームはより軽量化するなど性能を高め、フルマラソンで3時間のタイムを切る「サブ3」を目指す本格的なマラソンランナーの方向けの商品も充実させていきたいと思っています。